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鳥取地方裁判所米子支部 昭和38年(ワ)13号 判決

主文

1  被告等は原告に対して、米子市角盤町四丁目六番地家屋番号同所一番木造瓦葺二階建居宅一棟建坪二〇坪二勺外二階一三坪二勺の明渡をせよ。

2  訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文と同趣旨の判決を求め、請求の原因として「原告は昭和三七年九月一二日当裁判所昭和三六年(ケ)第八八号不動産競売事件の競売許可決定により主文掲記の家屋(以下本件家屋という)を競落し、代金の支払をすませて、同年一〇月二九日原告にその所有権取得登記がなされた。本件家屋は原告の競落前被告経夫の兄茅野治郎八の所有に属していたので、被告経夫とその妻被告恭子は右治郎八と賃貸借関係なく右家屋に居住してきたにすぎない。従つて、被告等は原告に対して何らの権限なく右家屋を占有しているから、原告は所有権に基づき被告等に対して本件家屋の明渡を求める。」と述べた。

被告等訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁及び抗弁として「原告主張事実は争わないが、被告等が本件家屋を権限なく占有するとの主張は否認する。被告経夫は昭和二三年被告恭子と結婚し、昭和二六年に兄治郎八が他人に賃貸していた本件家屋が空いたので移り住む事となり、昭和二七年一一月人を介して兄治郎八に交渉した結果、本件建物とその敷地をいわゆる分家料として贈与するとの事であつたので、じ来被告等は被告経夫の所有として本件家屋に居住し、管理、修繕、改造、増築を行い、世間も経夫の所有であることに疑をもたなかつた。尤も兄弟の間柄なので被告経夫に所有権移転の登記をしなかつたが、昭和三七年一一月に至り、原告から本件家屋を競落により所有権を得たから空けてくれとの申入れを受け、驚いて調査すると治郎八は自己の債務のため本件家屋に抵当権を設定し、競売が行われたこと、治郎八は本件家屋を被告経夫に将来贈与する約束を与えたに過ぎないことが判つた。しかし右経過によれば、被告経夫は本件建物を自己の所有として平穏、公然、無過失に占有を継続し満一〇年を経た昭和三七年一一月を以て時効により本件家屋の所有権を取得したのである。かりに右時効の抗弁が採用されないならば原告の明渡請求は権利の乱用であると主張する。即ち原告は米子市内に店舗(金物商)と住宅を所有し、実母と伜夫婦は店舗に、原告夫婦は住宅に居住し、その他数ケ所に建物を所有し、被告等が本件建物を長く占有住居していることを承知の上、本件建物を必要とする事情もないのに、二七万余円という市価の三分の一ないし二分の一で競落したのであり、被告らは本件建物で食糧品の卸しを営業し、月収三万円ないし三万五千円の収入をあげ、辛くも子供二人を養育しており、原告より明け渡しの申入をうけてから、被告恭子は原告に対し、本件家屋に於て営業を継続したい旨の調停を米子簡易裁判所に申立てたが、原告は敷金一〇万円、月額賃料一万五千円を主張し、被告等は月七、八千円以上の支出は困難なので調停は不成立に終らざるを得なかつた。以上のように、困窮する被告らに対し、さし迫つた必要または格別の用途もないのに明渡を請求するのは権利の乱用である。」と述べた。原告訴訟代理人は被告主張事実のうち、原告の家族構成、財産状態、被告らが居住しているのを競落したこと、調停申立がなされ、原告が被告ら主張のような条件を出したことは認めるが、その余の事実は争うと述べた。

立証(省略)

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